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2025/06/20
ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず

こんにちは。
Tukuroiの藤野です。
今日は、日々の作業のなかでふと心に浮かんだ、「無常(むじょう)」という言葉について、少しだけ綴ってみようと思います。
この言葉は、私自身、人生のさまざまな場面に出会うたび、折にふれて思い出すものです。
【すべてのものは、うつろいゆく】
「無常(むじょう)」とは、「常ならず」、つまり、あらゆる存在や出来事が一時的であり、やがて必ず変化・消滅するという事実を示します。
「無常観(むじょうかん)」というのは、
すべてのものは常に変わりゆき、永遠に同じ姿ではいられない、という静かなまなざしのこと。
人の心も、季節の移ろいも、暮らしのかたちも。
変わらないものなんて、実は何ひとつないのかもしれません。
昔の人たちは、このことを深く見つめ、肌で感じながら、「無常観(むじょうかん)」という人生観にまで育てました。
仏教の考えに由来しながら、四季折々の自然のうつろいに風情を感じてきた日本人の暮らしや美意識の根っこに、どこか深く、やさしく息づいているものです。
【うつろいのまなざし】
こうした、「無常観」を象徴するものとして、日本の古典文学の中でもとりわけよく知られている一節があります。
日本三大随筆のひとつ、鴨長明の『方丈記』の冒頭です。
ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず。
淀みに浮かぶうたかたは、かつ消えかつ結びて、久しくとどまりたるためしなし。
世の中にある人と栖(すみか)と、またかくのごとし。
現代語にすると、
「川の水は絶えることなく流れているけれど、その水はもう、さっきと同じ水ではない。
浮かぶ泡は現れては消え、長くとどまることはない。
人の命や住まいもまた、それと同じだ」――というような意味になります。
この静かな言葉に込められたまなざしは、800年という時を超えて、今もなお多くの人の心に深く響きます。
自然のうつろいや人の心の動きを、鴨長明の繊細な感受性と豊かな表現力で描いた『方丈記』は、思想書という枠をこえて、文学作品としても高く評価されてきました。
読むたびに、新たな気づきや余韻を残してくれるこの書には、「無常」や「人生の意味」といった、時代や国境を超えて共感を呼ぶ、“普遍的なテーマ”が静かに息づいているのだと思います。
私自身も、その静けさの中にある深いまなざしや、言葉の美しさに、魅了されたひとりです。
物質的な豊かさがあふれる現代においても、精神的な充足感や心さの安らぎを求める多くの人にとって、
『方丈記』は、静かな支えとなり、人生の輪郭をそっと照らしてくれるような存在なのかもしれません。
またいずれ、この書に触れ、想いを巡らす日が来ることと思います。
【傷や汚れに、時間の色を見る】
家具リペアという仕事をしていると、「無常」という考え方が、すっと腑に落ちる瞬間があります。
Tukuroiに持ち込まれる家具の多くは、長く暮らしとともに歩んできたものです。
たとえば、長く使われてきた椅子やテーブルに刻まれた傷、色の変化、脚や部材のぐらつき――
それらは単なる「劣化」ではなく、時の流れの証そのものです。
手をかけてきた日々、そこにあった時間や記憶のかたちです。
手を入れるのは、その変化を「なかったこと」にするためではなく、
その時間を受け止め、次の変化(うつろい)へとそっと送り出すためでもある。
家具リペアの仕事は、ものを永遠にとどめようとするものではありません。
むしろ、“変わる(うつろう)”こと、
“終わる”こと、を受け入れながら、
その中にある美しさや意味を、静かにすくい上げて、丁寧につないでいく作業でもあると、私は感じています。
【いま、この瞬間を生きるということ】
「無常」という考え方は、一見すると切なさや寂しさを感じるかもしれません。
でも、だからこそ——
「今を大切に生きよう」
「この瞬間に心を向けよう」
「変化を自然なこととして、穏やかに受け入れよう」
という、物事の儚さを受けとめながらも、その中に自分なりの幸せや意味を静かに見つけていく——
なにか、穏やかでやさしい、前向きな生き方のヒントになる気がしています。
そして、家具リペアの仕事も同じだと思うのです。
「永遠」を目指すのではなく、
「いま、この家具が必要とされていること」を大切にする。
【そっと、結びに】
今日もまた、Tukuroiには、静かな手仕事の音が響いています。
この小さな場所からお届けする手仕事や言葉を通して、「無常」にそっと触れるひとときがあったなら、うれしく思います。
藤野